万が一に備える!特殊清掃で使える保険と注意点
ご家族や親族が賃貸物件で亡くなられ、特殊清掃が必要になったとき、「費用は誰が負担するのか」「使える保険はあるのか」と不安になる方は少なくありません。孤独死の現場では清掃と原状回復の両方が必要になることが多く、加入している保険を確認できるかどうかで、その後の負担の見え方が変わります。
この記事では、賃貸物件で使える可能性がある保険と、実際に請求するために必要なこと、そして保険では賄いきれない部分について、あぐりが現場で経験してきたことをもとに整理します。
特殊清掃の費用に使える可能性がある保険
賃貸物件で孤独死が起きたときに使われることがあるのは、入居時に加入する家財保険の付帯契約です。「少額短期保険」や「借家人賠償責任保険」と呼ばれるもので、これらをまとめて孤独死保険と呼ぶことがあります。いずれも、孤独死によって家主が受けた損害に対応するための保険です。
借家人賠償責任保険
借りている部屋や建物に損害を与えてしまったときに、貸主に対して負う法律上の損害賠償責任をカバーするための保険です。孤独死による建物の汚損が「損害」として扱われ、特殊清掃や原状回復の費用が支払いの対象となることがあります。
火災保険・少額短期保険の特約
借家人賠償責任保険は、火災保険や少額短期保険の特約として付帯されていることが多くあります。多くの賃貸住宅では、契約時に火災保険や家財保険への加入が求められています。
ただし、契約期間はさまざまで、更新は任意加入である場合もあります。そのため、加入しているかどうかを入居者ご本人もご家族も把握できていないことがあります。不動産管理会社の担当者でも、孤独死に立ち会った経験がなく、こうした保険があること自体を知らないという場面に出会うこともあります。
保険を使うために、実際に必要なこと
保険があるかどうかを調べることと、実際に請求できる状態にしておくことは別の話です。あぐりが現場で見てきた範囲では、この段階でつまずくことが少なくありません。
加入しているかどうかを調べる
もっとも確実なのは、賃貸契約のときに家財保険を引き受けた損害保険会社へ問い合わせることです。不動産管理会社や仲介会社が損害保険の代理店を兼ねていることも多く、そこから確認できる場合があります。
手がかりが見つからないときは、記帳済みの預金通帳が役に立つことがあります。通帳は資産の記録であると同時に、保険会社やカード会社へ問い合わせるための情報が残っている場所でもあります。
発見までに時間が経っている場合、契約が有効だった時期にあたるのかどうかが分からないこともあります。広島県内で対応した現場では、保険の更新手続きの時点でご本人がすでに亡くなられていたことが、警察が作成した死体検案書の記載から確認でき、保険が適用されたことがありました。加入の記録が見つかった場合は、時間が経っているからと判断せず、まず保険会社にご相談ください。
施工前・施工中・施工後の記録を残しておく
保険を請求する際には、現場の状況が分かる書類や画像を求められることがあります。あぐりでは、特殊清掃の作業にご遺族が立ち会われないことがほとんどであるため、施工前・施工中・施工後の画像を保管し、「施工完了報告書」としてお渡ししています。
実際にあった例です。立ち会いのうえで引き渡しを終えた約2か月後、ご遺族から突然お電話をいただきました。孤独死保険に加入していたことが後から分かり、請求のために施工前・施工中・施工後の画像が必要になったとのことでした。ただ、お渡ししていた報告書は「気持ちのよいものではなかったので処分した」とのことで、手元に残っていませんでした。
作業直後には見たくない記録かもしれません。それでも、あとから必要になることがあります。すぐに開かなくてかまいませんので、保管だけはしておいていただければと思います。
報告には期限がある
損害保険には事故報告の通知義務があり、保険の契約内容(約款)によって報告の期間が定められています。この期間を過ぎると、本来は請求できたはずの権利が失われてしまいます。
期間は契約によって異なりますので、加入が分かった時点で、できるだけ早く保険会社へ連絡することをおすすめします。
鑑定人による現地調査が行われることがある
あぐりの実感では、この数年で保険会社の確認は丁寧になりました。3年ほど前までは見積書や画像の提出で手続きが進むことが多かったのですが、現在は書類の記載方法が変わり、損害保険鑑定人による現地調査も行われるようになっています。
広島県内で、死後1年ほど経ってから発見された現場の依頼を受けたときのことです。損害保険会社の鑑定人の方と現地で立ち会いました。臭気は乾燥と低温のために弱く、体液は寝具に吸収されているようにも見えましたが、ベッドの枠に青いカビが出ていたことから、あぐりは体液が床に流れ落ち、壁の石膏ボードに吸い上げられていると見立てました。鑑定人の方の見立てとは異なり、その日はベッド撤去後の画像を提出することになりました。
翌日、家財を搬出したうえで体液可視剤による確認を行ったところ、ベッド下の床のおよそ2畳分に体液が付着しており、一部は壁の石膏ボードに吸い上げられていました。この画像をお渡ししたことで、ご遺族は鑑定人の方の認定を受けることができました。
鑑定人は、正式には損害保険登録鑑定人という肩書きの方々です。ただ、体液がどこまで染み込んでいるかは、実際に解体や清掃を行わなければ分からない部分があります。だからこそ、施工する側が根拠となる記録を残しておくことに意味があります。
適用が難しいとされるケース
保険金が支払われるかどうかは、損害の原因が突発的かつ偶発的な事象であるかどうかが判断の基準になるとされています。次のような場合は「故意または重大な過失」とみなされ、適用が難しくなることがあります。
- 長期にわたる不衛生な状態。清掃を長く行わなかった結果として、カビや汚れがひどくなった場合
- 多頭飼育による汚損。飼育の状況が悪く、建材にまで臭いや汚れが染み付いた場合
- 喫煙による重度の汚れ。過度な喫煙により、壁や天井が広い範囲にわたって変色・汚損した場合
また、天井の水漏れの跡のように火災保険の付帯契約で対応できることがあるものでも、長期間放置された状態であれば適用外とされることがあります。空き家整理の現場では、経年劣化との区別が問題になる場面もよくあります。
これらはあくまで、あぐりが現場で見てきた傾向です。適用するかどうかを判断するのは保険会社であり、損害保険登録鑑定人による精査を経て決まります。ご自身のケースで使えるかどうかは、必ず加入先の保険会社にご確認ください。
保険だけでは賄いきれないことがある
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
孤独死保険には補償の上限が設定されています。そして特殊清掃は、孤独死による臭気を取り除くための作業です。不動産管理会社や物件のオーナーから見れば、そこはまだ通過点で、その後に原状回復の工事が求められます。上限の中で特殊清掃と原状回復の両方を収める必要があるため、特殊清掃費用と原状回復費用のすべてを保険で賄えることは、現実にはそう多くありません。
「保険で対応するのだから、業者はどこでもよい」「上限の範囲内であれば金額は問わない」と考えてしまうと、かえって負担が増えることがあります。理由は2つあります。
1つは、根拠の不十分な請求は却下されることがあるという点です。支払いは損害保険会社と鑑定人によって精査されます。請求が認められなかった場合、その差額は特殊清掃を契約した方へ請求されることになります。
もう1つは、施工の範囲が原状回復の費用に直結するという点です。臭気を取り除くために解体したり切り取ったりする範囲は、施工する業者の技術によって変わります。範囲が広がるほど、その後の原状回復の費用も大きくなります。あぐりでは、原状回復の工事がしやすい形での切り取り・解体を心がけています。解体の範囲が広がれば、それは消臭ではなく解体に近づいてしまうと考えているためです。
見積りの金額だけでなく、その内訳と作業範囲が説明されているかどうかは、保険を使う場合でも確認しておきたいところです。見積りで何を見ればよいかは、遺品整理・特殊清掃の見積りは何を見る?時間と料金が変わる条件で詳しく扱っています。業者を選ぶときの確認事項は、遺品整理・特殊清掃のトラブルを防ぐためににまとめています。
依頼の前後で確認しておきたいこと
保険を使えるかどうかにかかわらず、次の点を確認しておくと、後から困ることが少なくなります。
- 賃貸契約時の火災保険・家財保険に、借家人賠償責任の特約が付いているか
- 付いている場合、加入先の保険会社と、報告の期限がいつまでか
- 施工前・施工中・施工後の記録を残してもらえるか
- 見積りに作業の範囲と内訳が書かれているか
- 臭気が残っていないことを、どの時点でどう確認するか
作業中に建物や共有部を傷めてしまった場合の考え方は、遺品整理・特殊清掃で起こりがちなトラブルと対策で扱っています。
保険は、負担を軽くする手段のひとつであって、すべてを解決するものではありません。使える可能性があるなら早めに確認していただきたいですし、賄いきれない部分があるのなら、その前提で見積りと作業範囲を見ていただきたいと考えています。保険の加入状況や確認方法についても、状況に応じてご相談をお受けしています。判断に迷われている段階でも、状況をお聞かせいただければと思います。