特殊清掃・臭いの原因と下処理・オゾン燻蒸機の運用方法
今回は実際に発生した孤独死の事案を例に、特殊清掃の実態についてご説明します。
その現場は賃貸住宅の1DKの玄関で発生していました。連帯保証人の方が金銭的な事情から早期対応ができなかったため、マンションオーナーが別の業者に消臭を依頼していました。しかし、下処理が行われていなかったため、臭いは若干和らいでいるものの、消臭は全くの不完全な状態でした。
孤独死の臭いの原因とは
人の体は主にたんぱく質・水分・カルシウム・脂質で構成されており、これらが微生物にとっての栄養源となります。腐敗が進むと微生物が繁殖し、それが腐敗臭の原因となります。
微生物(雑菌など)が繁殖しやすい環境の条件は、気温15℃以上・湿度60%以上です。人の体には「栄養」があり、春から秋にかけては「温度」と「湿度」も揃います。この三条件が整うと腐敗が始まり、排泄物やアンモニアが混じり合った腐敗臭が漂います。これは孤独死に限らず、ゴミ屋敷や多頭飼育現場(いわゆる猫屋敷)の悪臭にも共通して見られる現象です。
腐敗が進むと人体は溶解し、液状化していきます。その液体が気化・蒸発することで、腐敗臭は室内全体へと広がっていきます。
下処理が行われていなかった(クロスの下処理とは)
クロスは本来、室内の湿度をコントロールし、下地である石膏ボードを保護・補強する目的で使用されます。吸湿性・通気性を備えた素材として製造されており、湿度の高い室内でのカビ発生を抑える役割も担っています。しかし孤独死の現場では、黒カビや、畳には黄カビが発生していることも珍しくありません。
重度の消臭除去が必要な現場では、腐敗した体液が液状化・揮発し、その臭気源が吸湿性・通気性を持つクロスの内部に入り込みます。クロスや石膏ボードに直接体液が吸い上げられた箇所は、撤去・解体が必要となります。ただし、体液が直接浸潤していない石膏ボードについては、解体なしで消臭が可能なケースもあります。また、特殊な機材(企業秘密)を用いることで対応できる施工方法もありますが、クロスはボロボロになる可能性があり(素材によって異なります)、結果的に張り替えが必要になることも少なくありません。
下処理(臭気源の特定)
「下処理とは何か」と疑問に思われる方も多いと思います。特殊清掃における臭気源とは、孤独死であれば体液の浸潤箇所、ゴミ屋敷であれば腐敗した食品が液状化した箇所、ペット臭であればアンモニアが付着している箇所を指します。この臭気源の特定と除去こそが特殊清掃における最大の課題であり、この作業を行わなければ、臭いの根本的な除去は不可能です。
臭気源除去の施工方法は多岐にわたりますが、ここでは公表できる範囲でご説明します。
まず、赤外線機器や体液可視剤を使用して体液の浸潤範囲を確認・特定します。目視できる体液もあれば、目視では確認できないケースもあるため、この機材と作業は欠かせません。
臭気源が特定できたら、次の工程へ進みます。床板・根太・大引き(床板を支える建築資材)にどの程度まで体液が浸潤しているかを確認し、次の施工方針を策定します。体液が床下まで落下しているケースでは、根太や大引きの撤去が必要となります。こうした重度の現場では、根太や大引きに大量の体液が染み込んでいたり、人体の油脂が凝固していたりすることも少なくありません。床下に体液が落下している場合は、床下の確認も必要です。床下がモルタルなのか、土なのか、その他の素材なのかによって、施工方法が変わります。
下処理の具体的な方法
木製建築資材(床板・根太・大引きなど)に体液が浸潤している場合を例に挙げます。
床板にごくわずかに付着している程度であれば、薬剤によって体液を洗浄・分解できることもあります。一方、根太や大引きについても同様の対応が基本ですが、体液が凝固しているケースでは、化学的に体液を除去することは困難に近く、撤去が必然的な選択となります。
床下がモルタルの場合は、薬剤で洗浄して体液を除去する作業が必要です。以前は「斫り(はつり)」による除去が行われていた時期もありましたが(現在も一部の業者では行われているようです)、現代では科学・化学の応用と技術の進化により、洗浄による臭気源除去が可能となっています。床下が土の場合は、単純に土を掘り起こして撤去することで対応できますが、目視だけでは浸潤範囲の確認が困難なケースも多くあります。
また、多くの業者が見落としがちなのが**CF(クッションフロア)**です。クッションフロアとは塩化ビニール製の防水性の高い床材です。防水性が高いことは広く知られていますが、それが逆に特殊清掃における盲点となっています。
CFは接着剤(糊)で貼り付けられた床材であり、プロの内装業者でも継ぎ目が非常に見分けにくいものです。その継ぎ目から体液が浸潤している場合、表面に異常は見られなくても、CF裏面の糊の部分にまで体液が広がっていることがあります。また、どれほど防水性が高くても体液によって変色している場合は、接着糊に体液が浸潤しているため、撤去が必要となります。
特殊清掃とは、文字通り「清掃」である
孤独死やゴミ屋敷の異臭は、臭気源の対策だけで解決できるものではありません。気化した体液は凹凸のある物に付着しやすく、除去が難しい性質を持っています。
たとえば金属製品には臭気が付着しても、適切な洗剤を使用すれば比較的容易に除去できます。しかし、表面加工(塗装など)がされていない素材——人形・畳・椅子・布団・衣類・革製品・紙製品などは凹凸が多く吸湿性が高いため、消臭は非常に困難です。
また、体液が一度気化すると、室内のあらゆる汚れ(キッチンの油汚れや埃など)にも吸着していきます。
そのため特殊清掃では、微細な埃に至るまで除去が必要となります。それぞれの素材に適した薬剤・洗剤を選択し、適切な手法で洗浄・除去する——この丁寧かつ細かい作業の積み重ねこそが、消臭施工を成立させる下処理の本質です。
オゾン燻蒸機の効果について
「オゾン燻蒸を行えば臭気除去ができる」と都市伝説のように信じている一般の方や管理会社の担当者の方も多くいます。しかし、オゾン燻蒸は主に表面処理として使用する機材であり、オゾン燻蒸単独での消臭は不可能に近いと考えています。
特殊清掃は、単一の施工方法で完結するものではありません。弊社ではオゾン燻蒸機を使用せずに消臭を成立させることも珍しくありません。ただし、石膏ボードに体液が深く浸潤した重度の現場では、オゾン燻蒸機を応用した消臭を行うこともあります。
中程度以上の現場(夏場で死後2週間以上が目安)では、消臭剤を噴霧してオゾン燻蒸を行うだけでは臭気除去は困難です。オゾン燻蒸の前に使用する消臭剤は一般的な消臭剤とは異なり、無臭に近いものです。これはオゾン燻蒸の効果を最大限に引き出すための「オゾン促進剤」と考えていただくとわかりやすいかと思います。
オゾン燻蒸のみによる施工では不完全な消臭にとどまります。こうした「臭い戻り」によって、他業者の施工後に弊社へやり直し依頼が来るケースは少なくありません。
オゾン燻蒸機の種類と特性
オゾン燻蒸機にも複数の種類があり、オゾンの生成方法も異なります。オゾン発生体には真空管タイプと金属電極タイプがあり、生産国も国産・イスラエル製・中国製などが流通しています。
イスラエル製は真空管タイプが多く、国産・中国製は金属電極タイプが主流です。どの機材が最も効果的かは現場の状況によって異なります。
最もオゾン燻蒸量が多いのはイスラエル製の「X20000」ですが、燻蒸量が強すぎるため、ある程度の知識と経験が必要です。燻蒸時間や燻蒸量の設定を精緻にプランニングしなければ、オゾニド(燻蒸後に残る塩素に似た強い残臭)が発生し、臭い戻りの確認が困難になるなど、逆に施工工程が長引くこともあります。
金属電極タイプはX20000と比べてオゾン燻蒸量は低いものの、長時間の稼働が可能という特長があります。
弊社ではすべての機種を保有しており、現場の状況に応じて真空管タイプと金属電極タイプを使い分け、どのような現場にも対応できる体制を整えています。
中国製機材のご使用に際するご注意
今後、特殊清掃を依頼される方、または同業者の方に一点お伝えしておきたいことがあります。中国製のオゾン燻蒸機は110V仕様となっているものが多く、日本のコンセント(100V)に直接差し込むことはお勧めできません。過電流防止のため、「プラグ漏電遮断機」の使用をお勧めします。施工した物件で火災やボヤを引き起こしては本末転倒ですので、ご注意ください。
昨今の特殊清掃業者の参入状況
2025年に入り、遺品整理業界はすでに飽和状態に達しており、経営難に陥っている業者も多く見受けられます。
新規参入業者の中には、オゾン燻蒸のみで完全な消臭ができると思い込んでいるケースもあります。必要な知識・スキルを十分に持たないまま受注しているケースも散見されます。
この記事をご覧の皆様にお願いがあります。この業界では、今もなお不完全な消臭スキルで高額請求を行う業者が後を絶ちません。もし特殊清掃が必要になった際は、本記事の内容を参考にして業者を比較・検討してください。施工内容についての説明を確認することで、その業者のスキルをある程度推し量ることができ、不完全な消臭被害を防ぐことにつながります。
弊社のサービスエリア外でお困りの方がいれば、同業者の方でも構いません。お気軽にご連絡ください。
相談やアドバイスは無償で対応いたします。